前の記事『毎日の飲み水の確保、どうする？＠フィリピン』では、フィリピンの水道事情、飲料水とその入手方法についてお伝えしました。今回はそのようにしてぬかりなく安全な水を手に入れて生活していた私がかかった水の罠のお話です。 食事中にこの記事をご覧の方は、また別な時にされた方がよいかもしれません。念のため。

　水にアタる、っていうんでしょうかね。いわば食中毒の水ヴァージョンのようなもので、水のせいでお腹を壊すということがあって。その原因が大きく二種類あるのはご存じですか？一方はお水が古かったり不衛生だったりして細菌性腸炎を起こすもの。こちらは良く知られていて、海外では外食先で出されるジュースや水に浮かんでいる氷にも気を付けよう、なんていう記事もよく見ますよね。ところがもう一方はあまり知られていなくって、けっこうしつこく調べないと検索に上がってきませんでした。

　水にアタるのは不衛生な水を飲食することが原因だ、と理解していた私は、こちらに来てすぐから、家で料理をする時はちゃんとミネラルウォーターのウォーターサーバーのお水で煮炊きをしました。外で食事する時にも、レストランで出される氷の入ったお水はしっかりと避け、お肉も卵もお魚もしっかり火の通ったものしか箸やフォークを伸ばしませんでした。自分で言いますが、模範生です。そんな風にして１～２週間暮らし続けた頃でしたでしょうか、どうもお腹の調子がよろしくない。快腸快便がほぼ唯一のとりえとしてン十年生きてきた私が、朝からお腹が痛くて痛くて家のお手洗い（comfort roomの略でCR、シーアール）を占拠する始末…。

　苦しがる私を心配して腹痛の原因をググってくれていた夫がポツリ、水？と。

　！？　水…ですと…？　いえいえ、私、水にはとても気を付けてましたよね！ ちゃんとした水しか口にしていないのに？ …どゆこと？

　二人で粘り強く調べ続けて１０分はかかったでしょうか、水道水は飲むな、氷に気を付けろ、という記事を排除し続けて検索を進め、やっとそれ以外の原因がちらりと顔をのぞかせました！！　なんと、その犯人の意外な正体は、『ミネラルウォーター』自身だったのです！

　水には様々なミネラルが含まれていて、採取される土地よってその含有成分や割合が異なっています。〇〇の美味しいお水、エビアン、コントレックス等と商品化されたりしてるものは、その違いも売りにしていますよね。この水中のミネラルの量の違いによって水は硬水と軟水に分けられ、水に含まれるカルシウムとマグネシウムの量が多ければ多いほど硬く、その逆が柔らかいとされます。ここまでは何となく知っていました。が、この “マグネシウム” 、これがお腹をゆるくする原因となることがあるんだそうです！こちらについては全くの無知でした。日本のお水はほとんどが軟水なんですが、世界的にみると軟水の国は割と少なく、ここフィリピンはミネラルの多い硬水なのです。 “マグネシウム” たっぷりです。私の腹痛の原因は、水がきれいか汚いかという問題ではなく、水に含まれるミネラルの種類と量が、体に合うか合わないか、という問題だったのです。

　いやぁ、知りませんでした。調べたら、マグネシウム、下剤に使われたりしてるんですね。快腸快便ン十年の私にはあまりにも縁のないものでした。マグネシウムはカルシウムやリンとともに人の心と体のバランスを保つのに非常に重要な物質なので、体内では常に一定の濃度を保つように体は機能しているといいます。血中のマグネシウムが少ない時には筋肉や骨に蓄えられているマグネシウムを放出し、多くなれば腎臓を通して排出してゆくようになっているのだそうです。平常時はこのバランスを体が自動的に保っていてくれるのですが、極端に減少したり過剰に摂取したり、体や腎臓が弱ってくるとその機能が発揮しにくくなることがあるんだそうです。

　なるほど確かに、夫の急な海外赴任、引っ越しの準備、引っ越せばうだるような暑さの続く初めての南国、住まいを整え暮らしを整え、家の外へ出れば慣れない英語が溢れている…。気づかずに心も体もダメージを受けていたんでしょうね。そこへもってきて、このマグネシウムたっぷりの水で育った作物、それを食べて育った魚や肉、それらを更にマグネシウムたっぷりの水で煮炊きした料理を、ミネラルウォーターとともに、しかも（食いしん坊なので）たっぷりと頂いていたのですからね。弱った身体にとってはいきなりの過剰摂取に近いものがあったのかもしれません。

　犯人は目星がつきました。どうやら “マグネシウム” です。でも痛い。とにかく、痛い。ずっとお腹の急下降状態。出ても痛い。出なくても痛い（涙）。病院行かなきゃだめ？英語話せないんですけど？　フィリピンの病院、どこに行っていいのかもまだよくわかってないんですけど？　何とか自分で治す方法、ないでしょうか？ …助けて、グーグル先生…。

　ところがところが、グーグル老師が提示してくれた解決策はとっても簡単にできるたった一つの事でした！それは、摂取する水をミネラルウォーターから蒸留水に代える、というそれだけのことでした。蒸留？あれははるか昔、中学生の頃、理科の実験で液体を熱して水蒸気と化して空気中に見えなくなったものを、再び冷やして液体化させた、アレですか！１００℃は水だけが蒸発する温度だから１００℃で蒸発したものだけを集めて冷やせば、混ざりものなしの純粋な水の出来上がりというヤツですね。いや、でも、蒸留水って、どこで手に入るのでしょうか。蒸留酒ならば よく 時折お世話になっているんですが…。蒸留水、日本では売っているのを見たことがない気がします。

　調べると、フィリピンではコンビニやスーパーで普通に売られているとのこと。すぐさま近くのスーパーまで買いに行きましたよ！買いに行けばすぐに飲み始められますからね。痛むお腹をなだめながらスーパーの水売り場に行くと、ありました！よく流通している緑の帯のボトルのabsolute（アブソリュート）というお水が蒸留水で、500㎖～8ℓまでならんでました。値段も他の硬水より500㎖で数ペソ高い程度。夫の力も借りて６ℓを２本とすぐに飲む500㎖を買いました。

　このabsoluteはコンビニでも売っていることが多いですし、absolute以外にもwilkins（ウィルキンス）も少々お値がしますが蒸留水です。このwilkinsはウォーターサーバーの水のデリバリーもあるので、初めからwilkinsのデリバリーにしておけばこんなことにはならなかったかもしれないのに、少々お値がするからといって（ほんとに少々だけなのに）最初から考えに入れていなかったんですよね…。それ以外のボトルウォーターでは、nature’s spring（ネイチャーズ・スプリング）の中でもgreenという種類は蒸留水ですし、SUM-MIT（サミット）は蒸留水ではないけれど含有ミネラル量からみればギリギリ軟水の範疇です。そのほか蒸留水という意味のdistilled（ディスティルド）と書いてあるお水ならばよさそうです。どうしてもdistilledがない時は成分表示を見比べてミネラル分の少ない方の水にするのも手かな、と思いました。

　 そして実は同時に、民間療法？も試すことにしました。南米、ベルギー、ドイツ、フランス等では腹痛の時にコーラを飲んで治すんだそうで。日本ではむしろ人に止められそうな方法なのに、上記地方では常識のように言われているとか。糖分と水分を同時に摂れる、炭酸によってある種のバクテリアが死滅する、炭酸が胃のむかつきを改善する、リンがマグネシウムの働きを弱くする等、 科学的な根拠というよりは伝承のような理由を見かけましたが、それよりも何よりも、腹痛は嫌だけど外食はしたい、食に対して積極的な私（ｗ）には、『水がダメならコーラを飲めばいいじゃない』という案がとっても魅力的に映ったちゃったわけです。そうして外食する場合には、同時にコーラやスプライトといった炭酸飲料を飲むこともマイルールとしました。

　すると、なんということでしょう！三日もするとあのつらい腹痛から解放され、一週間もするともうすっかり快腸に戻ったのです。助かりました！蒸留水の情報を提供してくださった皆々様に感謝が絶えません。そして、自分が子供の頃には骨が溶けるとか歯が悪くなるとか言われてあまり飲ませてもらえなかった炭酸飲料たちとも、よい形で出会い直しができたのは嬉しいことでした。

　さて、お腹の不調を起こす硬水ですが、体調が良ければ問題なく飲めるという話もありますし、硬度を調節して徐々に慣れていくことが出来るという話もあります。確かに私もあれからしばらくたった今では、当時より反応がましな気もします。

　以上が私の清潔な水でお腹を壊した体験談と解決方法でしたが、体調に関してはまずは何よりも専門家に相談することを皆様にお勧めします。でももし腹痛の原因が硬水に違いないと思われた方は、どうぞご参考になさって下さいね。